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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)58号 判決 1972年6月24日

原告

風間晴雄

ほか三九名

(別紙当事者目録記載のとおり。)

原告ら訴訟代理人

秋山泰雄

外三名

被告

右代表者

前尾繁三郎

右指定代理人

篠原一幸

外二名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

一  原告らが一般職に属する国家公務員である地位を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第三  請求原因

一  建設省関東地方建設局甲府工事事務所長は、昭和二九年二月一日以降昭和四四年三月三一日までの間、建設大臣から、同工事事務所に勤務する工事人夫(現場労務者)たる一般職に属する職員を含む一定範囲の職員に対する任命権を委任されていた。

二  原告らは、別紙雇用年月日一覧表記載の日に甲府工事事務所長により、同工事事務所に勤務する被告の一般職に属する職員である工事人夫として採用された。

三  しかるに、被告は、原告らが被告の一般職の職員である地位にあることを争つている。<後略>

理由

一甲府工事事務所長が、昭和二九年二月一日以降昭和四四年三月三一日までの間、建設大臣から、少なくとも同工事事務所に勤務する職員のうち一般職の非常勤職員に対する任命権を委任されていたことは当事者間に争いない。しかし、同所長が右の範囲以上の任命権、すなわち常勤職員の任命権を委任されていたことを認めるに足りる証拠はない。

請求原因第二項の事実は、当事者間に争いない。

二原告らの任用の形態

<証拠>によれば、建設省の非常勤職員には準職員、補助員、附属調書および人夫の四職種があつたこと、準職員は任期を二か月として、その他の非常勤職員は任期を一日として、すなわち日々雇用の形態で任用されていたものであること、以上のことは甲府工事事務所においても同様であつたことが認められる。また、<証拠>によれば、原告らは右にいわゆる人夫という職種に属する職員として雇用されたこと、給料は日給制で、雇用当初から自他ともにその雇用形態を日々雇用のものと称していたこと、甲府工事事務所においては、昭和三六年度までは、同工事事務所が直営方式で施工していた工事に従事していた原告らをはじめとする工事人夫に対し、各行政年度末に一旦その任用の更新を拒絶するという措置がとられてきたこと、そしてこの措置がとられると工事人夫は一定期間就労することができなかつたのであるが、昭和三六年度の原告らの場合には引き続き就労できたこと、原告ら自身としても少なくとも昭和三五年度末ころまでは自己が日々雇用の職員であると考えていたのであり、その後別個な任命行為があつたわけではないが、ただ右のような事情があつたので、昭和三六年度以降は日々雇用の職員であるという意識が希薄になつたに過ぎないこと、原告らは職員に採用されると就労点検票の交付を受け、就労する場合にはこれを工事現場の係官に提出し、就業後に係官から就労の事実を証する検印を押捺してもらつてその返還を受けるという手続により就労していたのであるが、この就労点検票の裏面には、昭和三七年九月以降、「あなたは日々雇用の非常勤職員です。」との文言が記載されるようになつたこと、これに対し原告らは甲府工事事務所長にその記載の意味を尋ねた程度で、これが自己の任用条件と異なるものであるとの主張ないし異議を述べたことはなかつたことが認められる(以上の事実のうち、原告らに対しては、昭和三七年度以降、各行政年度末に任用更新を拒絶するという措置がとられていなかつたこと、および原告らは就労点検票の交付を受け、これの提出返還という手続により就労していたことは、当事者間に争いない。)。

以上認定の事実ならび甲府工事事務所長は同工事事務所に勤務する非常勤職員に対する任命権のみを委任されていたものであつて、原告らは同所長により同工事事務所に勤務する工事人夫として採用されたものであるとの事実を総合すれば、原告らは、いずれも、任期を一日とする非常勤の工事人夫として任用されたものであると認められる。

三期限付任用の許否

(一)  国公法には、一般職に属する国家公務員を任用する場合任期を定めることができるか否かについて明示の規定はない。ただ、わずかに同法第五九条が条件付任用について、同法第六〇条が臨時的任用について、それぞれその任期を規定しているにとどまる。

同法第五九条の条件付任用の規定は、職員の職務遂行能力の有無を判定するために六か月間の条件付採用を認めたものであつて期限を付することが特に必要な場合であるから、この規定があるからといつて、国公法が期限付任用をこの場合にのみ特に限定的に許したものとは解されない。また、同法第六〇条の臨時的任用の規定も期限付任用を例外的に認めた趣旨のものと解することはできない。むしろ同条は、恒常的に置く必要のあるいわゆる常勤官職に欠員を生じた場合に、その欠員を臨時的に補充するための任用方法に関する特則を定めたもの、すなわち同法第三三条第一項が職員の任用に関する根本基準として成績主義の原則を規定していることに対する特則を定めたものであると解せられるのである。常勤官職に欠員を生じ、これを緊急に補充しなければならない必要があつて職員を臨時的に任用する場合などには、その事柄の性質上、任用について同条同項の成績主義の原則による余裕のない場合もある。しかし、だからといつて、成績主義の原則によらないで採用した職員を無期限に国家公務員たる地位に置いておくことは、他方において成績主義の原則を採用した趣旨にもとり、任用制度の正常な運用を阻害する虞れを生ずる。同法第六〇条の規定は、右のような相反する要請の調和をはかり、一方で緊急の必要がある等一定の場合には成績主義の原則によらない任用を許容するとともに、他方でその任用から生ずる虞れのある弊を避けるため特に臨時的任用の期間を厳格に定めたものと解されるのである。したがつて、同条の規定が存するからといつて、一般職に属する国家公務員の期限付任用が原則として禁止されているものと解することはできない。

原告らは、一般職々員の任用に期限を付することなかんずく日々雇用は国公法の定める身分保障を奪うものであると主張するが、この主張はあたらない。同法は、職員の分限および懲戒の事由を限定的に規定し(同法第七五条、第七八条、第七九条、第八二条)、職員の身分保障をはかつている。国公法が予定する国家公務員の身分保障とは、国家公務員は、国公法の定める事由または手続によらなければ、その意に反して、身分をはくだつされる等の不利益処分を受けないということである。国家公務員の期限付任用が適法であるかどうかは暫くおくとしても、期限付任用が成立するためには、使用者としての政府(任命権者)と相手方(国家公務員となるべき者)との間において、任命行為の内容である期限についても、合意が成立しなければならない。任命権者が期限付任用を申し出で、相手方がその期限を承諾せず、期限の定めのない任用として同意したとすれば、任用の表示行為は合致しないから、任命は成立しない。また期限の定めなく任用された者について、後に任命権者が一方的に期限を設定しても、相手方の同意のない限り、有効な期限付任用とはならない。したがつて、国家公務員の任用に期限を付することは、その意に反する不利益処分ではないから、同法の定める身分保障を奪うことになるものではない。むしろ制度的には、両者は全く別個な問題である。私法上の雇用契約においては、労働者の保護を目的として、民法の特別法たる労働基準法が設けられているが、同法は民法と同様雇用期間を定めることを認めながら、かえつて民法とは異なつて一年を越える長期の雇用契約を禁止している(労働基準法第一四条)。これは雇用契約に期間の定めをすることと労働者の保護とが本来別問題であつて、相互に矛盾するものではないことを示している。同様のことは国家公務員の任用についてもいえる。何故なら、国家公務員の任命も、その法的性質を公法上の契約と解すると否とにかかわらず、国家公務員が労務に服し、使用者である政府がこれに報酬を支払うことを約する点において、私法上の雇用契約と異なるところはないし、しかも、労働基準法第一四条は、一般職の国家公務員にも準用されるものだからである(国公法第一次改正法律―昭和二三年一二月三日法律第二二二号―付則第三条)。期限付で任用された国家公務員の場合にも、その任期の範囲内においては、特段の定め(国公法第八一条)のある場合のほかは、同法ないし人規の身分保障の規定が等しく適用されるのであるから、身分保障について欠けるところはないである。

以上のとおり、国公法には、一般職々員の期限付任用の許否について明定するところはなく、これを禁止していると解されるような規定も存しないし、またこれを一般的に禁止しなければならない合理的理由も見出し得ないから、常勤官職であれ非常勤官職であれ、その任用に任期を定めることは、後記のような特別の事情のある場合を除いては、同法上必ずしも許されないものではないと解すべきである。当裁判所は、以上のような結論に到達したのであるが、この結論の根拠とするところは、被告の主張を採用するものではない。すなわち、国公法付則第一三条、人規八―一二第七四条第一項第三号、第二項の各規定は、一般職々員の期限付任用が原則として禁止されないとの解釈を導く根拠となるものではない。国公法付則第一三条は期限付任用について何ら定めていないし、問題とされるべきは期限付任用が国公法上許されるか否かだからである。

しかしながら、一般職々員の期限付任用は全く無制約に許されるものでもない。国公法は、国民に対し公務の能率的な運営を保障することを目的とするものである(同法第一条第一項)。したがつて、職員を任期を定めて任用することが公務の能率的運営を阻害するような場合には、期限付任用は許されないものといわなければならない。この意味において、恒常的に置く必要がある官職にあてるべき常勤の職員を任期を定めて任用することは、一般的には許されない場合が多いであろう。特に職務の遂行について、専門の知識と経験とを要求されるような常勤の官職にあてる公務員を期限付任用することは、職務への習熟を害し、ひいては公務の能率的運営を阻害するから、到底許されないのである(人規八―一二第一五条の二の規定は、この理を明示するものである。なお、この規定は、非常勤職員たる原告らに適用はない。)。要は、任期を定めて任用することが許されるか否かは、当該職員の職務の性質、内容、任期の必要性等からして、国公法の右制定目的に反しないかどうかによつて判断しなければならない。

(二)  原告らの職務の性質、内容、任期約定の事情等

1  甲府工事事務所が河川(富士川、笛吹川、釜無川)および道路(国道二〇号線等)の改築、改良、維持、補修等の業務を所管していること、原告らは、同工事事務所が直営方式で施工する河川の堤防の草刈り、堤防天端の補修、道路の路面、側溝の補修、清掃等の工事人夫として採用されたものであること、およびその従事していた作業の具体的内容が、土木作業、草刈り、抜根、芝付け、空石張り、清掃等であつたことは、当事者間に争いない。<証拠>を総合すると、右直営工事には原告ら人夫のほか行(二)の常勤職員(昭和三三年ころから昭和三七年にかけてその大部分が定員化された準職員、補助員および附属調書を含む。)も従事していたこと、右行(二)職員は原告ら人夫と同じ作業に従事していただけでなく、そのかたわら、人夫に対する作業の指示、監督、資材の管理等のほか、請負方式による工事の監督等をも担当していたことが認められる。これによれば、原告らが従事していた仕事の内容は、行(二)の常勤職員のそれと必ずしも同じではなかつたことが明らかである。

2  <証拠>によれば、原告ら人夫が甲府工事事務所の工事人夫として採用されたいと希望するときは、直接工事現場におもむいて係官にその旨を申し出で、係官から作業に耐え得るかどうか身体を確認される程度で採用されていたことが認められる。採用されると就労点検票の交付を受け、就労する場合にはこれを工事現場の係官に提出し、就業後に係官から就労の事実を証する検印を押捺してもらつてその返還を受けるという手続により就労労していたことは、前認定のとおりである。そして、この就労点検票が、原告らの就労確認となるとともに、賃金計算の根拠とされ、原告らは就労点検票の領収欄に自己の受領印を押捺のうえ、これを現場の係官に提出してその賃金の支払いを受けるものであることは、当事者間に争いない。また、<証拠>を総合すれば、原告らのうち昭和三七年九月以後に採用された者も、かつてこれより以前から甲府工事事務所の工事人夫として同工事事務所施工の直営工事に従事していたことがあるが、昭和三五年ころまでは原告らの大部分は毎年秋ころから翌年春の行政年度末までの間、すなわちいわゆる渇水期にだけ就労していたに過ぎないこと、原告らの月々の就労日数をみると、各人によりまた各月によつて必ずしも一定していないばかりでなく、年度末に任用更新拒絶を受けることがなくなつた昭和三七年四月以前は勿論のこと、それ以後においてすら、月によつては二〇日に満たない者が多数あり、一〇日に満たない者や全く就労していない者すらいること、原告らのうちかなりの者は副業として農業を営んでおり、農繁期の六月には他の月に比して著しく就労日数が少ない者もいること、雨天や荒天の日には作業ができないので原告ら人夫の場合には休日とされていたこと、これに対し昭和三三年ごろから昭和三七年にかけて定員化された準職員、補助員および附属調書は、定員化前から雨天等の場合にも就労していたことが認められる(但し、原告らの月々の就労日数が各人によつてまちまちであり、特に農繁期等時期的に著しく就労日数の少ない者がいたこと、および雨天、荒天の日には作業を行なわなかつたことは、当事者間に争いない。)。このように、原告らの就労の実態も常勤職員の場合とでは著しく異なるところがあつた。

3  甲府工事事務所が行なう直轄工事の施工方式に、同工事事務所が直接工事資材を入手し、人夫等の労務者を雇用して行なう直営施工方式と、民間土木業者に請負わせてする請負施工方式とがあることは、当事者間に争いない。<証拠>によれば、同工事事務所が施工する直轄工事の量および規模は、各年度の工事予算を基礎に上部機関(関東地方建設局)により立案される工事実施計画によつて決定されること、同工事事務所長は右工事実施計画によつて決定された直轄工事を直営と請負のいずれの方式によるかを決定し、直営方式による場合には、工事設計書を作成のうえ、当該工事の施工を担当する出張所に対し工事施工命令を発すること、工事実施命令を受けた出張所は工事設計書をもとに必要な労働力を算出し、工事現場の係官が作業に耐えられるかどうか身体を確認する程度で人夫の採用を行ない、これにより直営工事を実施していること、原告ら工事人夫の賃金は当該工事費の中から支払われるものであることが認められる。以上認定の事実から明らかなように、甲府工事事務所が所管する河川および道路の改築、改良、維持、補修等の業務それ自体は恒常的な業務である。しかし、原告らが従事していた具体的業務は、本来、各年度の工事予算ならびに工事実施計画によつて決定される工事量、工事規模、工事施工方式等によつて増減変動し、前認定のように天候にも左右され、必要とされる工事人夫の数も必らずしも一定しない性質のものである。また常に直営方式によつて施工されなければならないというものでもない。

(三) 以上のとおり、原告らは、国公法の定める成績主義の原則によらずに採用され、その従事していた業務はその時々によつて増減変動し、必要とされる工事人夫の数も必ずしも一定しない性質のものであり、常に直営方式によつて施工されなければならないというものでもない。また作業の内容も常勤職員のそれと必ずしも同じではないし、一般的にみれば極めて単純な肉体的労務であり、その遂行に専門の知識および経験を必要とせず、したがつて、何人をもつてしても容易にその職務に適応できるという意味で代替性の強い性質のものであるから、同一人をして継続してその職務を担当させる必要性もない。さらに、就労の実態からみても、常勤職員の場合に比して著しく異なつた面がある。そうすると、このような性質の業務に従事する原告らを日々雇用の形態で任用したからといつて、公務の能率的運営を阻害する等国公法の目的に反するものとも認められない。したがつて、原告らの任用に付せられた任期の定めは、国公法上許されないものとは認められないから、有効なものといわなければならない。

三任期満了による退職

国公法第一次改正法律付則第三条によれば、一般職に属する国家公務員に関しても、労働基準法第二一条但書、第一号第二〇条第一項本文が準用されると解されるから、原告らのように日々雇用の形態で任用された職員が一か月を越えて引き続き使用されるに至つた場合には、被告が当該職員の任用の更新を拒否しようとするときは少なくとも三〇日前にその予告をするか、三〇日分以上の平均賃金を支払わなければならない。そして、甲府工事事務所長が、原告一ノ瀬忠保、同荻原重徳、同風間久雄を除くその余の原告らに対して昭和四四年二月二一日に、また右原告一ノ瀬ら三名に対しては同月二五日に、いずれも同年三月三一日限り原告らの任用を更新しない旨の通知をしたことは、当事者間に争いない。

四再抗弁について

(一)  任期の定めのない任用への転化について

原告らが主張するところは必ずしも明らかではないが、任期の定めのない職員として任用されるべき実質的資格を有する職員について、期限付任用が長期間更新して継続されるとその任用は当然に任期の定めのないものになるというのであれば、この主張は全く理由がない。期限付任用は、いかに長期間更新して継続されても、期限付任用としての性質を変ずるものではない(人規八―一二第七四条第二項)。期限付任用と任期の定めのない任用とは、性質を異にする別個の任用行為であり、しかも少なくとも常勤職員の期限の定めのない任用行為は厳格な要式行為であるから(人規八―一二第七五条第一号)、任命権者による任期の定めのない職員への任命行為がなければ、任期の定めのない職員への任命が有効に成立し得る余地はないからである。また右の主張を、右のような実質的資格を有する職員について、期限付任用が長期間継続されるという事実があれば、これを間接事実として、期限の定めのない任用という要証事実の存在が推認されるべきであるという主張と解しても、本件のような事実関係のもとにおいては、右の主張もとり得ない。前記認定の原告らの採用および就労の実態、就労点検票の裏面の記載等からして、期限付任用を長期間更新したことのみで期限の定めのない任用の存在を推認するのは困難だからである。

(二)  手続的瑕疵について

国公法第八九条第一項の規定は、被処分者が当該不利益処分について不服申立てをする場合において、右申立てをするための資料を被処分者に与えようとしたものであるから、処分事由説明書の交付がないからといつて、不利益処分自体が違法になると解することはできない。

のみならず、本件任用更新拒絶は、前述のとおり、国公法第一次改正法律付則第三条により労働基準法第二一条但書、第一号、第二〇条第一項本文が準用される関係からなされたものである。日々雇用の形態で任用された職員については、一日の経過をもつて任用は終了するのであり、将来に向かつて任用を拒否することは、従前の任用を終了せしめる事由となるものではなく、その日以降の新たな任用を拒否するだけである。原告らの任用には、任用更新拒絶がなければ当然に従前の任用が更新されるというような約款ないし条件は付されていないのであるから、原告らは任期の満了をもつて当然に被告の職員たる地位を失なつたのであつて、本件任用更新拒絶によりその地位を失なつたものではない。そうすると、本件任用更新拒絶をもつて国公法第八九条第一項、人規八―一二第七一条第六号にいわゆる免職ないしは著しく不利益な処分ということはできない。

(三)  国公法第七八条違反について

本件任用更新拒絶が国公法第七八条にいう免職にあたらないことは、前述したところと同様であるから、原告らの主張は採用できない。

(四)  国公法第一〇八条の七違反について

原告らがその主張のとおり組合を結成し、組合が原告ら主張のとおりの活動をしてきたことは、当事者間に争いない。しかし、甲府工事事務所長が、組合ないし組合員である原告らを、右のような活動をしてきたが故に敵視し、本件更新拒絶におよんだものであることを認めるに足りる証拠はない。かえつて、<証拠>によれば、建設省では、行政経済の観点と民間土木業者の工事施工能力の整備状況から、業務遂行の合理化をはかるため、昭和三〇年前後ころからそれまで直営工事として行なわれてきた業務を漸次請負方式で施工するようになつたこと、甲府工事事務所においては、その所管業務特に河川および道路の管理業務が増大し、他方では定員内職員の削減問題が生じていたので、所管業務の能率的遂行と職員の合理的配置をはかる必要があつたこと、そのため建設省の右方針に従つて工事施工方式を直営方式から請負方式に転換することにし、昭和四四年一月中旬ころ、それまで直営工事に従事していた原告らの任用を同年三月三一日限り更新しない旨決定したことが認められる。したがつて、原告らのこの主張は認められない。

(五)  国公法第七四条違反について

国公法第七四条第一項の規定は、職員の分限、懲戒および保障についての根本基準を定めたものである。そして、原告らの任用終了の原因は任期満了であり、本件任用更新拒絶は、任用終了原因ではないのであるから、分限処分でもその他の不利益処分でもないこと、前述のとおりである。そうすると、本件任用更新拒絶について同条を適用する余地はないものといわなければならない。原告らの右主張は採用できない。

五結び

以上のとおり、原告らは、昭和四四年三月三一日限り、一般職に属する国家公務員である地位を失つた。よつて、本訴請求はいずれも理由がないから棄却することにし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(岩村弘雄 矢崎秀一 飯塚勝)

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